「ねえ、よんで!よんで!」
秋というには、まだまだ残暑が厳しい9月のある日曜日。夏の雲と秋の雲が混ざり合った青空の下、空とこども絵本館におじゃました。私自身が数年前までよく通わせていただいたので、玄関に足を踏み入れた途端に懐かしさがこみあげてきた。
玄関でくつをはくための小さい椅子、「こんにちは!」と笑顔の職員さん、地域の方が作られた動物の切り紙。すべてが子ども目線で迎えてくれる。子ども連れの親御さんは安心してお子さんとの時間を楽しめる場所だ。
日本には古くから絵で物語をあらわす絵巻の伝統があった。江戸時代になると、赤本とよばれる絵を中心とした絵本が作られた。大正時代には「赤い鳥」など子ども向けの雑誌や本が出版され、戦後は、赤羽末吉、かこさとし、上野紀子など多くの絵本作家が活躍するようになった。
海外では、エッツ、エリック・カール、ディック・ブルーナなどその国らしい文化、芸術を表現した絵本が作られ、様々な国で翻訳されている。
絵本館はその名の通り、絵本の図書館。全国的にも絵本だけに特化した図書館というのは珍しいらしい。今年17年目となる絵本館は、もともと昭和6年、小松警察署として建てられた。昭和47年に警察署の移転に伴い、教育委員会の庁舎になった。その後、平成13年に市民から「小松に児童図書館を!」という声が数多く上がった。それがきっかけとなり、絵本館開館に向けて小松市と市民が動き出した。
何度もワークショップや議論を重ね、平成18年7月15日に待望の絵本館がオープンした。この絵本館に欠かせない人物が、福音館書店編集者であった児童文学者の松居直(ただし)さんだ。小松市からの声掛けで講演会に来てくださったり、ご自分の蔵書を寄贈されたりと様々な形で力をいただいた方だ。松居さんは、絵本館建設中にもご夫妻で立ち寄ってくださり、「どんなことでも支えていくよ」と力強いお言葉をくださった。
絵本は大人が子どもに読み聞かせする本だと聞いたことがある。大人の声を耳から聞き、一緒に絵を眺め、その時間が思い出となり、子どもの心の支えとなる。絵本館では、「よんでよんで」という取り組みを毎月、こまつ市民読書の日の23日前後に行っている。職員が子どもに1対1で読み聞かせをし、読んでもらったら、シールを貼る。年間5回参加すると読んだ本を記
入する「どくしょ貯金通帳」がプレゼントされる。
今回、お話を聞かせていただいた絵本館職員の亀田さんは、「利用者の方が求めている本をお渡しし、喜んでいただけること、おもしろかった!と言ってまた来てもらえることがうれしい」とお話されていた。また、「ただ本を用意するのではなく、この人がいるから、この子が来るから、この本を用意しよう」という気持ちを大事にされているそうだ。
とても誠実で丁寧なお仕事をされている亀田さんのおすすめの本は、『私のことば体験』(松居直 著 福音館書店)。月刊『母の友』(福音館書店)に掲載された文章をまとめたもので、子どもに関わるすべての人におすすめの本だ。松居さんの素敵な言葉の数々は、こまつ図書館だよりにも掲載されている。育児に関わる大人の背中を押してくれ、今、この子どもとの時間がとても貴重なものだと教えてくれる。
最後に「絵本館として未来型図書館に期待されることは何でしょうか?」と尋ねてみた。「絵本館と同様に市民のみなさんといろいろな取り組みをしていき、中央館だけではなく、小松市のそれぞれの地域に図書館サービスが行き届いてほしい」と答えられた。
澄みきった青空がよく似合う空とこども絵本館。おやつも、おむつ替えも、ねんねも、まるごと受け止めてくれる絵本館。多くの方の思いが詰まった絵本館。これからも小松の親子の居場所として大切な時間を育んでくれるだろう。